食物繊維を摂って生活習慣病予防
監修・執筆
監修:医師 加藤 美貴(アムスランドマーククリニック勤務医)
執筆:管理栄養士 小林 真紀子(アムスランドマーククリニック健康増進科)
はじめに
食物繊維の摂取量不足は、肥満や脂質異常症・糖尿病・高血圧などの生活習慣病の発症率や死亡率に関連しているという多くの報告があります。
また近年、消化されずに大腸まで達した食物繊維の一部は、腸内細菌によって発酵・分解を受けて酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸に代謝されることが明らかになりました。
たくさんの腸内細菌の中でも、酪酸菌が食物繊維を分解して作る酪酸が、感染症予防やアレルギー抑制などの役割を果たしている事にも注目が集まっています。
多彩な腸内細菌が全身に影響する過程において、食物繊維の役割は重要であり、健康との関係が続々と発見されている食物繊維は、注目の成分です。
食物繊維の目標量
食物繊維の理想的な目標量は成人で24g/日以上、できれば14g/1,000kcal以上、といわれています。
しかしながら、近年の国民健康・栄養調査結果の食物繊維摂取量の中央値は、理想的な数値に対してかなり少ない状況です。
そして、日本人の食事摂取基準(2020年版)では、実現可能な量として、理想量よりも低く設定されているのが現状です。
食物繊維の摂取目標量
・男性(18~64歳)21g以上
・男性(65歳以上)20g以上
・女性(18~64歳)18g以上
・女性(65歳以上)17g以上
なお、動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年版)では、生活習慣病の重症化予防のためには、25~29g/日の摂取量で効果があるとされており、25g/日以上の摂取が推奨されています。
食物繊維の分類 ~不溶性、水溶性、発酵性食物繊維について~
食物繊維は不溶性、水溶性という物理的性質の分類で説明されることが多いです。
不溶性と水溶性では腸内での働きも異なっています。
不溶性のものには穀類や野菜、果物に多く含まれるセルロースやヘミセルロースなどがあります。水溶性のものには果物や野菜などに含まれるペクチン、オーツ麦や大麦に含まれるβ-グルカンなどがあります。
食物繊維は、発酵性による分類もあり、発酵性が高いものを発酵性食物繊維といいます。
栄養学的には発酵性による分類のほうが、より重要だと考えられています。発酵性食物繊維は、不溶性食物繊維も一部含まれますが、多くは水溶性食物繊維です。
発酵性食物繊維は腸内細菌によって分解されると短鎖脂肪酸が生成され、腸内を弱酸性にするなど、腸内環境を整える働きがあり、大腸上皮細胞の主なエネルギー源としても利用されます。
発酵性食物繊維
・大麦やオーツ麦などに含まれているβ-グルカン
・果物に含まれるペクチン
・ごぼうやにんにくに含まれているイヌリン
・小麦ふすま(ブラン)や全粒粉の小麦粉などに含まれるアラビノキシラン
食物繊維が多く含まれる食品とその効果について
食物繊維は、人の消化酵素によって消化されにくい難消化性成分の総称です。
食物繊維の多くが植物の細胞壁の成分ですので、植物性食品全般に含まれ、一部は甲殻類の殻などにも存在しています。
以下の表は食物繊維が多く含まれる食品の1食分の食物繊維量です。
出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
穀類、豆類、野菜類、きのこ類など、植物性食品を十分に摂り、穀類は精製度合いが低いものを選ぶなど、多種類の食品を組み合わせて摂るのが理想的です。
現在、糖質制限に取り組む方が増えておりますが、主食(ご飯、パン、麺など)の減らし過ぎは食物繊維不足につながります。
食物繊維の摂取量不足は、生活習慣病の発症率や死亡率に関連しており、動脈硬化性疾患予防のための食事療法では、未精製穀類、緑黄食野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類の摂取量を増やすこと、糖質含有量の少ない果物を適度に摂取することなどが推奨されています。
未精製穀類、野菜、果物、大豆などの植物性食品は食物繊維ばかりでなく、ビタミンやミネラル、ポリフェノールやイソフラボンなどのファイトケミカル※を含んでおり、動脈硬化の発症予防に役立っていると考えられています。
※「ファイトケミカル」とは、植物が紫外線や虫などの害から身を守るために作り出した色素や香り、アク、辛味などに含まれる機能性成分のことです。抗酸化作用や代謝の促進など、様々な健康効果が期待されています。
動脈硬化予防のための食事療法(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より一部抜粋)
・未精製穀類、緑黄食野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類の摂取量を増やす
・炭水化物エネルギー比率を50~60%とし、食物繊維は25g/日以上の摂取を目標とする
・糖質含有量の少ない果物を適度に摂取し、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
難消化性デキストリンについて
消費者庁が保健効能や安全性を認可している特定保健用食品には、人工的に作られた「難消化性デキストリン」という食物繊維があります。
これらは、整腸作用を持つ有効成分として、また、糖の吸収や食後血糖値の上昇を緩やかにする効果や脂肪の吸収を抑制する効果の表示が認められており、幅広い食品に使用されています。
ただ、この難消化性デキストリンは水溶性食物繊維として働きますが、食品からとった天然の食物繊維と同じような、長期的な効果があるかは不明です。
オリゴ糖について
多くのオリゴ糖は体内に消化酵素が存在しない難消化性です。食物繊維と似た性質を持っており、腸内細菌の環境を整える働きがあるといわれています。
食物繊維の効果を活用する食事の摂り方
糖質を多く含む食品を最後に摂る
食事の際、食物繊維が豊富な野菜、海藻、きのこから摂ることで、食後の血糖値の上昇が穏やかになります。
食物繊維が水分を吸収して消化物を膨張させ、腸壁を伸展させると、その刺激が摂食中枢へ伝えられ、満腹感を早めに得ることが出来るため、食べ過ぎ防止にもつながります。
タンパク質や脂質にも食後の血糖値上昇を穏やかにする効果がありますので、おかず(副菜や主菜)を先に摂り、糖質を多く含む食品(ご飯・パン・麺などの主食)は出来るだけ最後に摂ることがお勧めです。
レジスタントスターチ(難消化性デンプン)を摂る
米や麦などに含まれるデンプンは加熱すると消化されやすい状態になりますが、難消化性のものも一部存在し、それをレジスタントスターチといい、性質的には食物繊維の一種といえます。
レジスタントスターチは小腸から吸収されずに大腸へと送られ、食物繊維と同じように働き、食後の血糖値上昇を抑制したり、便通を改善したりする効果が認められているようです。
お米が冷めた状態のおにぎりや、冷やしうどん、ざるそば、冷製パスタなど、冷めた状態で摂る麺類もレジスタントスターチが増えています。
パンもトースターで焼かずに摂ると食後血糖値の上昇を少し抑えることができるようです。
まとめ
食物繊維に注目し、穀類、野菜、果物、大豆など様々な植物性食品を摂ると、食物繊維ばかりでなく、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなどのファイトケミカルなどを摂ることにもつながります。
生活習慣病を予防し、健康を維持するために、旬の食材を積極的に活用しながら、食物繊維が豊富な色々な食品を毎食取り入れることをお勧めします。