災害時に必要な食と栄養素とは?
監修・執筆
監修:医師 吉野 初音(アムス丸の内パレスビルクリニック勤務医)
執筆:管理栄養士 小磯 愛弓(アムス丸の内パレスビルクリニック健康増進科)
はじめに
地震が多発する日本において、災害が起きた際の対応を考えておくことは非常に重要です。災害時やパンデミック時には医療が優先されますが、緊急時であっても食事をし、栄養を摂ることは命を守るためにとても大切です。
今回は非常時において、避難生活で不足しがちな栄養素や、バランスの取れた食事例について詳しく解説します。
避難所における栄養の参照量
まずは、必要な栄養量を知ることが大切です。避難所における食事提供の計画・評価のために、厚生労働省が示す1日の栄養の参照量は以下の通りです。
栄養素 | 参照量 | 補足説明 |
---|---|---|
エネルギー | 2000kcal | 1日あたりの最低限必要なエネルギー量です。通常の活動を維持するために重要で、避難所での体力維持に不可欠です。 |
たんぱく質 | 55g | 筋肉や臓器の修復に必要な栄養素です。特に、ストレスやケガからの回復を助けます。 |
ビタミンB1 | 1.1mg | 炭水化物をエネルギーに変えるのに必要なビタミンで、疲労回復や神経機能の維持に役立ちます。 |
ビタミンB2 | 1.2mg | 代謝を助け、皮膚や粘膜の健康を保つために必要なビタミンです。 |
ビタミンC | 100mg | 抗酸化作用があり、免疫機能の強化やストレスへの対応に役立ちます。また、傷の治癒を助けます。 |
これらの栄養素は、避難所での生活を健やかに過ごすための基礎となるもので、各栄養素が果たす役割を理解することで、食事の重要性を再認識できます。
災害時の献立例
災害時には、栄養バランスを考慮した献立を計画することが重要です。以下の献立例は、災害時に必要なエネルギーを確保しつつ、必要な栄養素を摂取するための参考になります。
これらの献立は、保存が利き、調理が簡単な食品を使用しているため、避難所でも実践しやすいものとなっています。
献立例1(1800~2000kcal)
朝
- おにぎり: 手軽にエネルギーを補給できる食品で、具材によってはビタミンやミネラルも摂取できます。
- 味噌汁: 味噌には発酵食品としての栄養価があり、温かい汁物は身体を温めます。
- ゆで卵: 高たんぱくで調理も簡単です。
昼
- 食パン: 長期間保存が可能で、すぐに食べられます。
- 魚肉ソーセージ: たんぱく質が豊富で保存が利きます。
- 野菜ジュース: ビタミンやミネラルを手軽に摂取できます。
夜
- 親子丼(レトルト): 調理が簡単で、たんぱく質とエネルギーを同時に補給できます。
- オレンジジュース: ビタミンCの補給に役立ちます。
献立例2(1800~2000kcal)
朝
- 食パン: そのまま食べられ、エネルギー源として優秀です。
- ツナ缶: 高たんぱくで、サラダやパンに合わせて摂取できます。
- チーズ: カルシウムとたんぱく質が豊富で、保存が利きます。
- 野菜ジュース: 必要なビタミンやミネラルを補給できます。
昼
- おにぎり: 手軽にエネルギーを補給できる食品で、具材によってはビタミンやミネラルも摂取できます。
- やきとり缶: たんぱく質を補給し、保存も利きます。
- フルーツ缶: ビタミンCを含み、甘さが疲労回復にも役立ちます。
夜
- 中華丼(レトルト): 調理が簡単で、バランスの良い栄養が摂れます。
- カップスープ: 温かいスープは心身をリラックスさせ、必要な水分を補給できます。
これらの献立は、非常時でも栄養バランスを維持しやすくするための工夫がされています。保存が利く食品や調理が簡単なレトルト食品を中心に組み合わせることで、避難所での生活を支えることができます。
水分の摂取も必要
災害時においても、十分な水分摂取は非常に重要です。水分が不足すると、以下のような健康リスクが高まります。
- 脱水症: 体内の水分が不足することで、体温調節がうまくいかなくなり、重篤な状態になる可能性があります。
- 熱中症: 特に夏場は、体温が上昇しすぎることにより、命に関わる危険性があります。
- 心筋梗塞や脳梗塞: 血液がドロドロになり、血管が詰まりやすくなるため、重大な健康リスクを引き起こす可能性があります。
- エコノミークラス症候群: 長時間同じ姿勢でいると、血栓ができやすくなります。これを防ぐためにも、こまめな水分補給が必要です。
必要な水の量
農林水産省の報告によると、1日に必要な水の量は飲料用と調理用を合わせて、一人当たり3リットルが目安とされています。以下に、具体的な水分摂取のポイントを挙げます
- 飲料水: 1日に少なくとも2リットルの飲料水を摂取しましょう。これには水、スポーツドリンク、果物のジュースなどが含まれます。
- 調理用水: 調理に使用する水も含めて、約1リットルを確保しましょう。例えば、インスタント食品を作るために必要です。
- 水の確保方法: ペットボトルの水やウォーターサーバーの水を事前に準備しておくと便利です。また、雨水や川の水を浄化して使用するための浄水器も備えておくと安心です。最近は手ごろな価格で災害用のものが販売されています。ペットボトルに装着できるものもあります。
このように、災害時には水分摂取が非常に重要であり、適切に水を確保し、摂取することで健康を維持することができます。水の備蓄と適切な使用方法を理解し、非常時に備えましょう。