健康寿命を延ばすための食卓とは
監修・執筆
監修:医師 金藤 昌子(アムスニューオータニクリニック勤務医)
執筆:保健師 山内 真由美(アムスニューオータニクリニック健康増進科)
はじめに
新しい年が始まりました。お正月から通常モードへと、生活リズムは戻られましたか?この1年も、この先へ続く未来に幸福が積み重なりますよう、皆様の食卓に福が訪れることを祈念しております。
さて、皆様の大切な健康寿命(健康上の問題によって日常生活が制限されることなく暮らせる期間)を延ばすために、国内の6つの国立高度専門医療研究センターが連携し、日本人に対する研究から疫学的科学的根拠に基づいた提言を公表しています。
様々な提言の中で、食事に関しては以下の通りです。
国民一人一人の目標
年齢に応じて、多すぎない、少なすぎない、偏りすぎないバランスのよい食事を心がける。
具体的には、食塩の摂取は最小限に、野菜・果物は適切に、食物繊維は多く摂取する。
また、大豆製品や魚を多く摂取し、赤肉・加工肉の多量摂取を控え、甘味飲料の摂取は控える。
年齢に応じて脂質や乳製品、たんぱく質摂取を工夫する。多様な食品の摂取を心がける。
(引用:国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所)
和食は理想的な栄養素バランス
2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
季節や彩りを考え器にまでこだわる見た目の美しさや、地域性が豊かな年中行事との関わりとともに認められた価値が、「健康的な食生活を支える栄養バランス」という項目です。
米、味噌汁、魚や野菜・山菜と いったおかずなどによりバランスよく一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。
また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。
一汁三菜は、主食となる飯に、汁物と副菜2点を組み合わせた献立です。
1食の料理の組み合わせとして「主食・主菜・副菜」を基本に多様な食品・食材を、理想的な栄養素バランスで摂れるため、国の健康政策である「健康日本21」では、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日がほぼ毎日の者の割合」を令和4年には目標80%としていました。
しかし外食の増加や食生活の欧米化により、「和食」離れが進んでおり、平成23年の68.1%から令和3年時点で56.1%と減少しています。
上記の最新の調査から、ここでは「主食・主菜・副菜・その他」のカテゴリごとに、もう一度ご自身の食卓を振り返ってみましょう。
主食
主食の量を減らすと食物繊維不足につながる
米は私たちが昔から食してきた穀類です。
近年は糖質制限の流行もあり、米の消費量が減ってきていますが、炭水化物は消化・吸収される糖質と消化されない食物繊維を合わせたもののため、主食の量が減ることが食物繊維不足につながります。
また主食を減らすと、相対的に主菜が多くなることで脂質が増えがちになります。
特に精製度の低い大麦・雑穀などの摂取量が激減した時期と、糖尿病が増え始めた時期が一致していて糖尿病やメタボの発症は食物繊維の摂取量とも密接な関係があります。
玄米や雑穀を主食に含めると効果的
玄米は精白米より食物繊維やビタミン、ミネラル、たんぱく質、食事の満足感を高めるγオリザノールなどが含まれ、栄養バランスがとりやすくなります。
食物繊維の摂取源である主食に雑穀を混ぜることは、食後血糖抑制に有効です。下表の穀類別食物繊維量では、麦が最も高いことがわかります。
血糖値が上昇しやすい夕食に麦や雑穀を加えて食物繊維比を上げるのもお勧めです。近年流行のもち麦、スーパー大麦はどちらも優秀です。
食物繊維の目標量
日本人の食事摂取基準の食物繊維目標量は以下ですが、到達しているのは60歳女性と70代男女だけです。
日本人の食物繊維の目標量
・18~64歳 男性:21g以上
・18~64歳 女性:18g以上
・65歳以上 男性20g以上
・65歳以上 女性17g以上
主菜
たんぱく質は健康を維持するのに重要な栄養素
たんぱく質は身体のあらゆる部位を構成する重要な栄養素であり、体内のたんぱく質は臓器や部位によりターンオーバーの速さは異なりますが日々生まれ変わっています。
また健康を維持するのに必要な抗体やホルモン、神経伝達物質などの材料となります。
年齢とともに炭水化物や脂肪の摂取目標量は減少しますが、たんぱく質はほぼ変わりません。
注意しないといけないのは、たんぱく質はエネルギーが充足していないと、エネルギー源として使われてしまうので、体づくりに使うためには、炭水化物が不足していない状態にすることが必要です。
たんぱく質の過剰摂取は肝臓や腎臓に負担をかける
たんぱく質をたくさん摂ればいいかといえばそうではありません。
たんぱく質は体内でアミノ酸に分解されますが、貯蔵できないので摂り過ぎた余分な分は肝臓で代謝されアンモニアから尿素に変換されて、腎臓から排出されます。
したがって、体が必要なタイミングで不足することがないように、毎回の食事で適切な量のたんぱく質を摂ることが大切です。
糖質制限や筋トレでのプロテイン使用などでたんぱく質を過剰摂取する方も見かけますが、過剰摂取は肝臓や腎臓に負担をかけることになります。栄養バランスが悪くなり、体に不調が表れやすくなります。
また筋肉を増やすためにと余分に取ったたんぱく質が、運動量と見合っていない場合は体脂肪となるので体重計の体組成で体脂肪率が増えていないかを確認しましょう。
たんぱく質の必要量
適切なたんぱく質の量は人によって異なります。
一日あたりのたんぱく質の必要量
・通常生活の人:体重×1.0g
・65歳以上の人:体重×1.2g
・走ったり持久性トレーニングを行ったりする人:体重×1.2~1.4g
・断続的にウエイトトレーニングなど高強度なトレーニングをしている人:体重×1.6~1.7g
ご自身の食事内容で不足しているか摂りすぎていないか、チェックしてみるのも大切です。
例えば、食品に含まれるたんぱく質量は、脂肪の少ない赤身肉や魚は重量の20%前後、ごはん200g・食パン6枚切り1枚で5g、豆腐1/4丁・高野豆腐(乾)1/2枚で4~5g、納豆1パック8g、卵は1個6g程度含まれています。
ご自身の日々の食事のたんぱく質量はどれぐらいでしょうか。
食品に含まれるたんぱく質量
・脂肪の少ない赤身肉・魚:重量の20%前後
・ごはん200g・食パン6枚切り1枚:5g
・豆腐1/4丁・高野豆腐(乾)1/2枚:4~5g
・納豆1パック:8g
・卵1個:6g
大豆はアミノ酸スコアが満点の食材
たんぱく源中でも大豆は食物繊維もとれ、アミノ酸スコア(ヒトの体で作ることができない9種類のアミノ酸で食事からの摂取が欠かせないもの)も満点です。
赤身肉(牛・豚・羊肉のことで魚肉や鶏肉は含まれない)やハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉のとりすぎは、循環器病や糖尿病のリスクが増加しますが、大豆製品は脂質異常症改善や循環器病予防につながります。
魚も食べよう
魚は良質なたんぱく質に加え、魚の脂に含まれるEPAやDHAが血液をサラサラにするだけでなく、記憶力や判断力の維持、認知症予防、脂質異常症改善や、体脂肪の燃焼を促進させるので、肥満の解消や予防が期待できます。
魚は肉の脂と違い炎症を抑えるので感染症による炎症のリスクも下げると言われています。更に魚は、日本人に不足しがちなビタミンDの供給源になります。
ビタミンDは筋肉の萎縮や分解を抑える働きがあることから筋肉の減少により代謝が落ちるのを防ぎ太りにくい体質に改善してくれると言われています。
これらの効果も期待し、魚は積極的にとりたい食材の一つです。
農林水産省の食料需給表によると、魚介類を2001年は1人あたり1日110.1g食べていたのが、2011年には肉類の摂取が上回り2020年には1日64.2gまで減っています。
2019年度の国民健康・栄養調査の結果では20-59歳までの魚介摂取量の平均値は60歳以上と比べて20gほど低くなっています。
魚介類の優れた栄養特性を得るためにも、調理の負担が少ない缶詰やチルド製品などの活用や、ブイヤベースやアクアパッツアのように野菜と一緒にスープ料理にしても簡単においしく召し上がっていただけます。
手軽に利用することで、魚介類の摂取が少なくならないように気を付けていきましょう。
副菜
1日に350g以上の野菜類を食べることを推奨
厚生労働省は生活習慣病などを予防して健康な生活を維持するための目標値として、1日に350g以上の野菜類を食べることを推奨しています。
サラダやおひたし、煮物が入っている小鉢1皿が70g程度なので1日5皿相当量が目標になります。
2019年度の国民健康・栄養調査では野菜の平均値が280.5gなので、小鉢1皿分程度をプラスするのが目標です。毎食、野菜小鉢を2皿程度取れるように準備したり、メインのおかずに野菜類を多めに足したりして料理するとクリアできそうです。
ビタミン類を不足なく摂取することが必要
摂取した栄養素が体内で利用されるためには、ビタミン類を不足なく摂取することが必要になります。
ミネラルは、身体機能の維持・調整に不可欠で、特に野菜に多く含まれるカリウムは、余分なナトリウム(食塩)を体外に排泄するのを手助けしてくれるので、減塩につながります。
また特に色の濃い野菜(カボチャ・水菜など)には、カルシウムも多く含まれています。
野菜は低脂肪、低エネルギーでありながら「かさ」が多いことから、満腹感を与えてくれるので、食べ過ぎを防ぐこともできます。
その他
果物や乳製品も摂取しよう
果物は厚生労働省と農林水産省が策定した「食事バランスガイド」では、1日200g以上が摂取目標です。温州みかんなら2個、リンゴなら1個程度取れていますか?
日本人が不足しているカルシウムを補給するために、牛乳など乳製品も優秀な補給源です。牛乳ならコップ1杯程度はとるようにしましょう。ヨーグルトならビフィズス菌や乳酸菌など善玉菌の補給もできます。
ご治療中の疾患がある方は、食事内容の見直しに関して主治医にご相談ください。
和食で多くなりがちな塩分を抑える工夫の詳細は、減塩コラムを参照してください。(摂り過ぎてしまう塩分を減らす方法 ~覚えておきたい「減塩」のコツ~)