高血圧対策として積極的に摂りたい栄養素~カリウム~
監修・執筆
監修:医師 加藤 美貴(アムスランドマーククリニック勤務医)
執筆:管理栄養士 小林 真紀子(アムスランドマーククリニック健康増進科)
はじめに
血圧を下げるには
血圧を下げるには、食事をはじめとする生活習慣の改善が基本であり、降圧薬を服用していても血圧コントロールには生活習慣の改善が欠かせません。
「高血圧治療ガイドライン2019」は生活習慣の主要な修正項目として減塩、減量、節酒等を含む6つの項目を挙げています。各項目を単独で改善することによる血圧低下の効果は、平均4~5mmHg程度と言われています。
生活習慣の修正項目
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」を参考に作成
※1 腎障害のある方はカリウム制限が必要な場合があるため、野菜・果物の摂取量は主治医にご相談ください。肥満や糖尿病などエネルギー制限が必要な方は、果物の過剰摂取に注意してください。
※2 多価不飽和脂肪酸はサバ、サンマ、ブリ、サケなどの魚、くるみ、あまに油、えごま油などに多く含まれます。
※3 肉の脂身やバターなどに多く含まれます。
※4 BMI:「体重[kg]÷身長[m]²」で算出。
※5 運動によって悪化する可能性がある合併症や運動器の痛み・変形などがある方は、事前に主治医にご相談ください。
※6 おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当します。
血圧は繰り返し測定すると短時間で5~10mmHg変動することがあります。
血圧が下がっている期間が短時間であれば、通常の血圧変動のなかの誤差のレベルと言えるかもしれませんが、1日24時間、血圧が少しでも低下した状態が続くことで、血管が受けるダメージが少なくなるため、その影響はとても大きいものになります。忙しい日々の中でも生活習慣の改善への取り組みは重要です。
平均収縮期血圧を低下させることで脳卒中死亡率を減少させることができる
「健康日本21」の予測によると、国民の平均収縮期血圧をわずか1mmHg低下させることで、脳卒中死亡率が3.2%(約4,600人)減少し、5mmHg低下では約16%(約23,000人)減少すると言われています。
前回のコラムでもお伝えしましたが、血圧が高い状態が続くと、無症状のまま全身の血管で動脈硬化が進む場合が多く、心疾患や脳卒中などの致命的な病気を発症する可能性が高まり、健康的に生活できる時間が短くなってしまうことにもつながります。
生活習慣の改善は、高血圧予防や降圧薬開始前のみならず、降圧薬開始後も重要です。血圧コントロールに取り組んで「死亡や寝たきり」の大きな原因である心疾患や脳卒中などを遠ざけ、元気に人生を楽しんでいきましょう。
血圧を低下させる効果が期待できる栄養素 ~カリウム~
血圧をコントロールするために
血圧をコントロールするための食事の摂り方で大切なポイントは、下記の2点です。
ポイント1:血圧を下げる作用が期待できる栄養素(カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維など)が含まれている食品(野菜、果物、海藻、大豆製品、低脂肪乳製品など)を今よりも積極的に摂ることです。
ポイント2:血圧上昇につながるもの(食塩、肉の脂身やバターに多く含まれる飽和脂肪酸)を今よりも控えることです。
カリウムは生命活動の維持に不可欠
前段で2つのポイントを紹介しましたが、今回のコラムでは、高血圧対策で注目してほしい栄養素である「カリウム」についてスポットを当て、紹介します。
カリウムは生命活動の維持に不可欠で、ナトリウムの過剰摂取に対抗して体外へ排出する役割を持ち、「高血圧治療ガイドライン2019」では、“カリウム豊富な野菜や果物の摂取が血圧低下に役立つ”と述べています。
以下にカリウムがどのような役割を持っているかのイメージを記載しますので、理解の参考にしてください。
日本人は諸外国に比べてナトリウムを摂り過ぎる傾向があるため、減塩とともにカリウムを積極的に摂取することが大切です。
カリウムの摂取目標量
摂取目標量は男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上
カリウムの摂取目標量は、男性3,000mg/日、女性2,600mg/日以上と設定されており、これは生活習慣病予防を目的とし、実現可能性を踏まえたものです(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」)。
日本人(20歳以上)のカリウムの平均摂取量は、男性2,439mg、女性2,273mg(2019年国民健康・栄養調査結果)ですので、男女とも高血圧の予防の観点からは不足していると言えます。
カリウムの摂取平均値から摂取目標量を達成するには、男性はあと約600mg、女性は約400mg必要ということになります。
カリウムが豊富に含まれる食品
野菜、果物、いも類、大豆製品、海藻、肉、魚
カリウムは多様な食品に含まれており、特に野菜、果物、いも類、大豆製品、海藻、肉、魚に豊富に含まれています。これらカリウムを多く含む食品の一覧を以下に紹介します。
まずは、実際に食事で摂る量にどの位含まれているかを知ることが大切です。1食当たりの目安と重量(g)、カリウムの含有量(mg)を表にしましたので、ご参照ください。
カリウムが豊富に含まれる食品<1食分の目安と重量>
出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
一般的な食事にもカリウムは含まれていますが、高血圧予防のためには、不足分を補うために意識して摂取することが推奨されます。定食スタイルの食事にし、様々な食品を摂るようにすると、食事全体のバランスがとれ、同時にカリウムの摂取にもつながります。
食物は様々なものを心がけて摂る
不足しがちな野菜と果物には、カリウムの他、ビタミンや食物繊維など、健康に役立つ成分が含まれています。種類により成分にかなり違いがありますので、様々なものを摂ることをお勧めします。ただし、肥満や糖尿病の方は果物の糖分(果糖)の摂取量に注意が必要です。
野菜と果物の適切な摂取は、高血圧だけでなく、脂質異常症、がん等の生活習慣病の発症リスクを低下させ、また、脳心血管病発症の予防にもつながります。
カリウムを効率的に摂るコツ
カリウムは水溶性のため調理方法に注意が必要
カリウムは水溶性のため調理方法に注意が必要です。根菜や豆類は調理してもカリウムの損失が少なく、生野菜や果物はそのまま効率よく摂取できます。
また、煮物は薄味にして煮汁ごと摂ることや、具沢山の味噌汁や野菜スープ等の汁物なら汁に溶け出たカリウムも摂ることができます。
電子レンジや蒸し調理では、カリウムは減らないので、活用するのもお勧めです。お茶やコーヒー、アルコール飲料等の利尿作用のある飲み物は、カリウムも排泄されやすくなってしまうため、摂り過ぎには注意が必要です。
カリウムを効率的に摂るコツ
- ・ゆでても損失量が少ない根菜や豆類を摂る
- ・野菜や果物を生で摂る
- ・煮物は薄味にして煮汁ごと摂る
- ・具沢山の味噌汁や野菜スープ等の汁物で摂る
- ・電子レンジや蒸し調理を活用する
- ・利尿作用のある飲み物の摂り過ぎに注意する
「カリウムを摂取すること」「水をこまめに飲むこと」はあわせて行う
血圧を下げるためには、しっかり水分を摂ることも大切です。
体内の水分が不足すると、血液が流れにくくなり、血管への負担が増し、血圧が上がりやすくなります。カリウム摂取とあわせてしっかり水分を摂ることで、余分なナトリウムを排出しやすくなります。
喉が渇いてなくても、就寝前や起床時など、1日7~8回、コップ1杯(200mL)の水をこまめに飲むことをお勧めします。特に起床時のコップ1杯の常温の水は、脱水と交感神経の刺激による血圧上昇を穏やかにしますので、大切です。
※腎臓病の方は、カリウム制限が必要になることがあるため、摂取量については主治医にご相談ください。心臓病や腎臓病の方は、水分の摂取量については主治医にご相談ください。