コラム

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2024.06.24

4.その他

災害時に必要な食と栄養素とは?

Contents目次

監修・執筆

監修:医師 吉野 初音(アムス丸の内パレスビルクリニック勤務医)

執筆:管理栄養士 小磯 愛弓(アムス丸の内パレスビルクリニック健康増進科)

はじめに

地震が多発する日本において、災害が起きた際の対応を考えておくことは非常に重要です。災害時やパンデミック時には医療が優先されますが、緊急時であっても食事をし、栄養を摂ることは命を守るためにとても大切です。

今回は非常時において、避難生活で不足しがちな栄養素や、バランスの取れた食事例について詳しく解説します。

避難所における栄養の参照量

まずは、必要な栄養量を知ることが大切です。避難所における食事提供の計画・評価のために、厚生労働省が示す1日の栄養の参照量は以下の通りです。

栄養素 参照量 補足説明
エネルギー 2000kcal 1日あたりの最低限必要なエネルギー量です。通常の活動を維持するために重要で、避難所での体力維持に不可欠です。
たんぱく質 55g 筋肉や臓器の修復に必要な栄養素です。特に、ストレスやケガからの回復を助けます。
ビタミンB1 1.1mg 炭水化物をエネルギーに変えるのに必要なビタミンで、疲労回復や神経機能の維持に役立ちます。
ビタミンB2 1.2mg 代謝を助け、皮膚や粘膜の健康を保つために必要なビタミンです。
ビタミンC 100mg 抗酸化作用があり、免疫機能の強化やストレスへの対応に役立ちます。また、傷の治癒を助けます。

これらの栄養素は、避難所での生活を健やかに過ごすための基礎となるもので、各栄養素が果たす役割を理解することで、食事の重要性を再認識できます。

災害時の献立例

災害時には、栄養バランスを考慮した献立を計画することが重要です。以下の献立例は、災害時に必要なエネルギーを確保しつつ、必要な栄養素を摂取するための参考になります。

これらの献立は、保存が利き、調理が簡単な食品を使用しているため、避難所でも実践しやすいものとなっています。

献立例1(1800~2000kcal)

  • おにぎり: 手軽にエネルギーを補給できる食品で、具材によってはビタミンやミネラルも摂取できます。
  • 味噌汁: 味噌には発酵食品としての栄養価があり、温かい汁物は身体を温めます。
  • ゆで卵: 高たんぱくで調理も簡単です。

  • 食パン: 長期間保存が可能で、すぐに食べられます。
  • 魚肉ソーセージ: たんぱく質が豊富で保存が利きます。
  • 野菜ジュース: ビタミンやミネラルを手軽に摂取できます。

  • 親子丼(レトルト): 調理が簡単で、たんぱく質とエネルギーを同時に補給できます。
  • オレンジジュース: ビタミンCの補給に役立ちます。

献立例2(1800~2000kcal)

  • 食パン: そのまま食べられ、エネルギー源として優秀です。
  • ツナ缶: 高たんぱくで、サラダやパンに合わせて摂取できます。
  • チーズ: カルシウムとたんぱく質が豊富で、保存が利きます。
  • 野菜ジュース: 必要なビタミンやミネラルを補給できます。

  • おにぎり: 手軽にエネルギーを補給できる食品で、具材によってはビタミンやミネラルも摂取できます。
  • やきとり缶: たんぱく質を補給し、保存も利きます。
  • フルーツ缶: ビタミンCを含み、甘さが疲労回復にも役立ちます。

  • 中華丼(レトルト): 調理が簡単で、バランスの良い栄養が摂れます。
  • カップスープ: 温かいスープは心身をリラックスさせ、必要な水分を補給できます。

これらの献立は、非常時でも栄養バランスを維持しやすくするための工夫がされています。保存が利く食品や調理が簡単なレトルト食品を中心に組み合わせることで、避難所での生活を支えることができます。

水分の摂取も必要

災害時においても、十分な水分摂取は非常に重要です。水分が不足すると、以下のような健康リスクが高まります。

  • 脱水症: 体内の水分が不足することで、体温調節がうまくいかなくなり、重篤な状態になる可能性があります。
  • 熱中症: 特に夏場は、体温が上昇しすぎることにより、命に関わる危険性があります。
  • 心筋梗塞や脳梗塞: 血液がドロドロになり、血管が詰まりやすくなるため、重大な健康リスクを引き起こす可能性があります。
  • エコノミークラス症候群: 長時間同じ姿勢でいると、血栓ができやすくなります。これを防ぐためにも、こまめな水分補給が必要です。

必要な水の量

農林水産省の報告によると、1日に必要な水の量は飲料用と調理用を合わせて、一人当たり3リットルが目安とされています。以下に、具体的な水分摂取のポイントを挙げます

  • 飲料水: 1日に少なくとも2リットルの飲料水を摂取しましょう。これには水、スポーツドリンク、果物のジュースなどが含まれます。
  • 調理用水: 調理に使用する水も含めて、約1リットルを確保しましょう。例えば、インスタント食品を作るために必要です。
  • 水の確保方法: ペットボトルの水やウォーターサーバーの水を事前に準備しておくと便利です。また、雨水や川の水を浄化して使用するための浄水器も備えておくと安心です。最近は手ごろな価格で災害用のものが販売されています。ペットボトルに装着できるものもあります。

このように、災害時には水分摂取が非常に重要であり、適切に水を確保し、摂取することで健康を維持することができます。水の備蓄と適切な使用方法を理解し、非常時に備えましょう。

災害発生時、優先して摂りたい食品

1~2日目

まずはエネルギーと水分の確保が必要です。災害時のようなストレスがある状態ではエネルギーとたんぱく質が普段より多く必要になります。ストレスの消耗を補い、また、感染症予防、免疫力維持や怪我をしている場合は早期治癒のための理由から積極的摂取が求められます。

食品 理由
パン 長期間保存可能で、簡単にエネルギーを摂取できます。
おにぎり 手軽に食べられ、エネルギー補給に最適です。
カップめん お湯がなくても、水を入れて30分程度で食べることができます。
1日に3リットルを目安に摂取し、脱水症を防ぎます。

3日目~

この時期からタンパク質やビタミン類が不足してきます。

食品 理由
魚肉ソーセージ タンパク質が豊富で、長期間保存可能です。
プロテイン タンパク質の補給に便利です。ドリンクタイプが手軽です。
缶詰 魚や肉の缶詰は、タンパク質とともにビタミンやミネラルも摂取できます。

水溶性ビタミンの重要性

水溶性ビタミンは、体内に長く留まらないため、毎日摂取する必要があります。特にビタミンB群は、体内で炭水化物を代謝するのに必要な栄養素です。

そのため、炭水化物中心となる災害時の食事においては積極的に摂ることが重要です。

ビタミン 摂取源
ビタミンB1 大豆のドライパックなど
ビタミンB2 サバの缶詰など

これらの食品は賞味期限が長く、常温保存できるため、非常に便利です。

4日目~

避難生活にストレスがかかりビタミンやカルシウムの消費が多くなるため、補う必要があります。

食品 理由
さつまいも ビタミンCを多く含み、常温保存が可能です。
ジャガイモ 同様にビタミンCを多く含み、保存が利きます。
りんご ビタミンやミネラルが豊富で、保存も簡単です。
フルーツ缶 長期保存が可能で、ビタミンCを補給できます。

ビタミンCは心臓病の予防や抗酸化作用があり、身体的、精神的ストレスにより消費量が多くなるため、災害時には特に重要です。野菜や果物が不足しないように注意しましょう。

また、菓子パンや菓子類は災害直後のエネルギー確保には役立ちますが、栄養が偏りやすいので注意が必要です。
 
なお、さつまいもやジャガイモの調理には、ガスコンロなど温める器具が必要です。

被災時に不足しがちな栄養素

災害時には、通常の食事が難しくなるため、特定の栄養素が不足しがちです。以下に、被災時に不足しやすい栄養素とその重要性、および補う方法について詳しく説明します。

栄養素摂取不足の回避

被災時には以下の栄養素が特に不足しやすくなります。

栄養素 理由および重要性
カルシウム ストレス下では腸管でのカルシウム吸収率が低下するため、積極的に摂取する必要があります。カルシウムは骨や歯を強化し、神経の働きや筋肉の収縮を助け、血液凝固を促進して出血を予防します。
ビタミンA 感染症予防や免疫の強化に不可欠なビタミンです。ビタミンAは視力の維持や皮膚・粘膜の健康を保つ働きもあります。ストレス下では免疫力が低下しやすいため、ビタミンAを十分に摂取することが重要です。
エネルギーの代謝や免疫産生にも関与する栄養素です。特に月経がある場合、鉄分が不足しがちになります。鉄は赤血球の生成に必要で、酸素を全身に運ぶ役割を果たします。不足すると貧血を引き起こし、疲労感や免疫力の低下を招きます。
ビタミンB群 エネルギー代謝に不可欠で、ストレスに対する耐性を高める効果があります。特にビタミンB1とB2は、炭水化物の代謝を助け、疲労回復を促進します。
ビタミンC 抗酸化作用があり、免疫機能を強化します。ストレスにより消費量が増えるため、被災時には特に重要です。また、コラーゲン生成を助け、傷の治癒を促進します。

不足しがちな栄養素を補う食品

被災時には保存が利き、手軽に摂取できる食品を選ぶことが重要です。以下に、各栄養素を補うための具体的な食品を挙げます。

  • カルシウム: 牛乳、チーズ、ヨーグルト、豆腐、干しエビ、煮干し
  • ビタミンA: にんじん、かぼちゃ
  • : 大豆製品(豆腐・納豆)、レンズ豆、プルーン
  • ビタミンB群: 大豆のドライパック、全粒穀物(玄米・全粒パン)、乳製品
  • ビタミンC: フルーツ缶(オレンジ・グレープフルーツ)、さつまいも、じゃがいも

対象特性に応じて配慮が必要な栄養素(生活習慣病の予防)

栄養素 理由
ナトリウム 高血圧の予防の観点から、成人においては食塩相当量として、男性は7.5g未満、女性は6.5g未満とします。ナトリウムの過剰摂取を避けることが重要です。

被災が長期化すると、災害時に配給される食品はカップ麺や缶詰など塩分(ナトリウム)が多い食品に偏りがちです。高血圧予防の観点から、食塩の過剰摂取に留意することが大切です。カップ麺や缶詰の汁は全部摂取しないようにしましょう。

まとめ

災害時に必要なエネルギーと栄養素の確保は、生き延びるために非常に重要です。特に初期段階ではエネルギーと水分の確保、その後はタンパク質やビタミン類の補給が必要です。また、特定の栄養素の不足を防ぐために、バランスの取れた食事を心がけましょう。

参考資料