今、気をつけて! 脂質異常症
監修・執筆
監修:医師 金藤 昌子(アムスニューオータニクリニック勤務医)
執筆:保健師 山内 真由美(アムスニューオータニクリニック健康増進科)
これからの季節に増える大きな病気
寒さと忙しさで運動不足が重なると余分なコレステロールや中性脂肪が増える
朝晩の冷え込みが一段と厳しくなりました。山では紅葉で彩られ、私たちも、そろそろ冬支度が必要な時期になりました。食べ物の旬が多い食欲の秋を楽しみましたか?
これから年末年始まで引き続き、食事会など飲食する機会が増えますが、寒さと忙しさで運動不足が重なると、体内に余分なコレステロールや中性脂肪が増えてしまいます。
心筋梗塞と脳梗塞のはじまりは動脈硬化から
心筋梗塞と脳梗塞は、それぞれ日本人の死因の2位と4位の疾患ですが、はじまりは動脈硬化からです。動脈硬化の危険因子として、加齢や喫煙、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病などがあります。
今回と次回のコラムで、動脈硬化を進める大きな原因となる脂質異常症についてイメージできるようにしていただき、重篤な病気を未然に防ぐためのお役に立てればと考えています。
嫌われ者のコレステロール・中性脂肪は少ないほど安心?
血液を流れる脂を知ろう
「コレステロールが年々あがってきた!」「中性脂肪がいつも高いので注意をうける…」健診結果を見て、同じような気持ちになる方はいませんか?
血液検査で数値となって示されるコレステロールと中性脂肪は、どのように作られ、何のために血中に存在するのでしょうか。なぜコレステロールや中性脂肪の数値が上がるのかを理解するために、まず血液を流れるこれらの脂質について知りましょう。
コレステロールと中性脂肪が作られ血液中へ運搬されるのは、2つのルートがあります。
1つ目は、食事の脂肪分が小腸などで消化吸収され中性脂肪やコレステロールになり血液中を流れるルートです。
2つ目は、肝臓で糖質や脂質から中性脂肪やコレステロールが合成され血液中へ運び出されるルートです。
どちらのルートでも、血液中に運び出される中性脂肪やコレステロールは脂なので水をはじいてしまい、そのままでは血液中を運ぶことができません。そのため、中性脂肪やコレステロールにアポ蛋白やリン脂質が結合して“リポ蛋白”という複合体となり血液中を移動できるようになります。ここではイメージしやすいようにリポ蛋白を“船”に例えて説明します。
上の図をご覧ください。船は積み荷のコレステロールと中性脂肪の量により名前が変わります。
さきほど説明した1つ目の、食事の脂肪が消化吸収され、血液中を流れる船が「カイロミクロン」です。
「カイロミクロン」はイラストのようにコレステロールも少し積みますが、積み荷の大半は中性脂肪です。たくさんの中性脂肪を脂肪細胞や筋肉へエネルギー源として届けます。そして最終的に肝臓へ戻っていきます。
2つ目の肝臓で作られた中性脂肪とコレステロールを運搬する船は「VLDL」です。「VLDL」も積み荷の半分は中性脂肪で、脂肪細胞や筋肉など全身に運搬します。
血液検査の中性脂肪の値は、この「カイロミクロンと」と「VLDL」に積まれた中性脂肪の量となります。
そして「VLDL」から中性脂肪を運搬し終えて、積み荷がほぼコレステロールだけになったものが「LDL」です。
「LDL」はコレステロールを全身に運搬しているのに対し、「HDL」は余ったコレステロールを回収し、血管壁にたまったコレステロールを引き抜いて肝臓へ戻す役目をしています。
運搬役のLDLコレステロールと回収役のHDLコレステロールが良いバランスの時は健康を維持できているのですが、LDLコレステロールが増えすぎると血管壁に潜り込み動脈硬化を進めてしまいます。
また、LDLコレステロールが増えすぎるだけではなく、回収してくれるHDLコレステロールが少なくても動脈硬化は進行します。
コレステロールは本来、一定に保たれている
悪いイメージがあるコレステロールですが、私たちの60兆個ある細胞の細胞膜や、ホルモン・脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸の材料にもなる、なくてはならない大切な物質です。
身体の中のコレステロールのうち、食べ物に含まれているコレステロールが直接小腸から吸収されるのは20〜30%です。残りの70~80%は食事から得た脂質や糖質から肝臓で合成され、一定量が常に供給されるように保たれています。
すなわち「食べた食品に含まれるコレステロール」=「血中のコレステロール」ではありません。
通常は食べたコレステロール量に応じて肝臓の合成が調整されますが、食事量が多くなると調整が追いつかず、増えすぎてしまいます。
また、年齢とともに細胞の新陳代謝が下がってきたり、女性ホルモンや男性ホルモンの分泌が少なくなると、コレステロールの使い道が少なくなります。
コレステロールは肝臓で胆汁酸と便中へ排泄される以外は消費しませんので、増えすぎないように食事を注意することが、より大切になります。
中性脂肪が多いとコレステロールに影響を与え、動脈硬化を促進する
コレステロールは体を作る脂質として大切ですが、中性脂肪もなくてはならないものです。中性脂肪は、身体のエネルギー源で、いざという時に使えるように脂肪細胞へ蓄えられます。
中性脂肪は存在する場所により呼び方が変わりますが、みんな同じです。血液中にあれば中性脂肪と呼び、脂肪細胞にたまると体脂肪と呼びます。
中性脂肪が低すぎるとエネルギー不足で疲れやすくなったり、体温調整がうまくいかなくなったりします。反対に増えすぎると体脂肪や肝臓にたまり、肥満や脂肪肝になってしまいます
また中性脂肪が多いと代謝不全をおこしHDLコレステロールを少なくしたり、LDLコレステロールを小型化させたりして、動脈硬化を進めます。
小型化されたLDLコレステロールは肝臓に回収されにくく血液中にとどまる時間が長いのと、サイズが小さいので血管壁の中にすり抜けやすく酸化されやすいという特徴があります。
そのため、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールよりも強力に動脈硬化を進めるので超悪玉とも呼ばれています。
動脈硬化をイラストでイメージする
増えすぎたLDLコレステロールは血管の内側(内膜)から血管壁に入りこみ、酸化LDLコレステロールになります。この酸化LDLコレステロールは異物として白血球の一種のマクロファージに食べられます。
コレステロールをためこんだマクロファージは泡沫細胞となり、内膜に沈着してプラークというコブを作ります(図1)。
その後、プラークが何らかの原因で破綻すると修復のため血栓ができ血管を塞いでしまい、心筋梗塞や脳梗塞などを起こします(図2)。
血液検査で脂質の異常がわかる
健診で血液中の脂質に異常があるかは、中性脂肪とLDLコレステロール、HDLコレステロール、non-HDLコレステロールの数値で知ることができます。
non-HDLコレステロールはHDLコレステロール以外の動脈硬化を起こすコレステロールの総数です。中性脂肪を多く含むカイロミクロンやVLDLの処理途中のものも動脈硬化をおこしますが、これも含まれています。
また超悪玉の小型化LDLコレステロールは、中性脂肪やnon-HDLコレステロールの数値が高い場合、多い可能性があるので注意が必要です。
以下の表は、脂質異常症の診断基準ですが、いずれかひとつでも、あてはまる場合は脂質異常症の疑いがあり、動脈硬化を進行させる原因となります。あなたの数値はいかがでしたか?
脂質異常症の診断基準
・LDLコレステロール 140mg/dl以上
・HDLコレステロール 40mg/dl未満
・中性脂肪 150mg/dl以上(空腹時採血)
・Non-HDLコレステロール 170mg/dl以上
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版脂質異常症の診断基準より
目で見てわかる血管の検査
頚動脈超音波検査はダメージによる血管の変化を目で見ることができる
血液検査ではそのときの数値で血管が傷む危険性を予測しますが、これまで受けたダメージによる血管の変化を目で見ることができる検査が、頚動脈超音波検査です。
この検査は首にゼリーを塗って超音波をあてるだけなので、放射線被ばくや痛みもありません。身体への負担が少ない検査です。
超音波で動脈硬化の状態を把握する
首の動脈(頚動脈)は心臓から頭に向かう大きな血管で、皮膚から浅い部分にあるため、超音波で血管の厚さ(血管の内膜と中膜をあわせた厚み)や、プラークの有無や性状を調べることで動脈硬化の状態を把握します。
これにより心臓の動脈や脳動脈の状態を推測することができます。
動脈硬化が気になる方は、一度検査を受けてみてはいかがでしょうか。
頚動脈超音波検査の様子
右総頚動脈の様子(左画像は正常、右画像は血管内にプラークが存在)
次回は生活習慣をどう改善すればよいかについてお伝えします。